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【婦人画報 大正15年 北大路魯山人 凝った日本料理 原文①】

婦人画報 大正15年 北大路魯山人 凝った日本料理 原文①

日本料理で最も贅沢なものといえば、茶人の会席膳などであるが、しかしこうしたものでもりょうりそのものよりもむしろ、その什器にあって珍奇高価な目を驚かせるものではない。一体日本料理の材料rは豊富なために支那料理の如く高価だというようなものは少ないようである。真似し得られないというよりも、それを日常そうした高価な料理を食べているという事柄が贅沢という意味にもなるが、日本料理としてはそう贅沢なものはあまり見られないようである。

私の子供の時分に聞いた話であるが、ある非常に食道楽の人がいていろんなものを食べ飽き、ある料理屋に行ってなんでもいいから珍しいものを食べさせてくれといって、出さしたのがすっぽんスープで煮た卯の花であった。もちろんそれは非常に味の良いものであったが、また非常に値段が高かったので流石の食通も驚いてどういうわけでそんなに高いのかと聞くと、それはすっぽんを幾度もつぶしてそのスープで煮たため材料に金がかかったということであるが、これ等も贅沢といえば贅沢な料理である。

あるいはまた嵯峨の三軒家で茶人などが食べる茶漬けは大変贅沢なものであるというが、これはごりという魚の佃煮が非常に高価なものになっていて、1升20円から25円もするほどでその佃煮でお茶漬けを食べたらいくらでも食べられる。

これなども贅沢な食物の1つであろう。それからまた京都の料理屋辺りでは鯛の身のところをあらにして1皿いくらで極めて易く売っているが、つまりこれは料理屋で鯛の肉眼を料理に使うので、目玉だけが必要であとは不要いところからその身を捨て売りにするわけである。鯛の肉眼料理は1尾から2人前即ち目玉2個が料理に使われその目玉を食わんがために鯛を潰すのであるから高い料理になるのである。

クチコといってなまこの干したものがあるが100匁が20円もするもので酒のツマにしたり吸い物に落としたりして食べるものであるがこれらは材料として、最も高いものである。そこをいくと支那の料理に使う白木耳は銀耳といって1種キクラゲに似た物や燕の巣などは日本では見られない高価な料理となっていて、支那では片方の掌にこれをもち、片方の掌に金をもってどっちが重いかというくらいこの燕の巣は金よりも高いと言われる高価な食材である。私たちが日常使用している。カワハギの肝なども非常に美味なものだが、この魚は身の方は一向に美味しくないもので、この肝だけが料理に使われ、あとは捨てるところからこれも比較的ぜいたくなものとも言えるがこの他ハモやタイの肝なども中々珍味である。

現在日本の料理屋で贅沢な食べ物といえば鮎の洗いなどでそれも京都とか岐阜あたりからわざわざ生かして持ってきてこれを洗いにして食べるところから倍にも何倍にも価がつくというようなところで、贅沢な料理になるのである。

このように材料や料理は、それほど珍しいというようなものではないけれども、この料理に伴って贅沢なものとして見られるのは食器類である。